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------------------------------------------------------------------------------- 生殖医療の倫理問題について、実地医療の面からお話させていただきます。 本日は、まず、当院で行なっております不妊治療を例にあげて、現在の生殖医療の現状についてお話し、その後、生殖医療の倫理問題について考えてみたいと思います。 <スライドお願いします。> まず、当院の不妊治療についてご紹介いたします。 当院には院長と私の2名の医師がおりますが、不妊外来を担当しておりますのは私一人です。平成3年に私が東京に参りまして、不妊外来を開設致しました。昨年4月までは分娩も扱っておりましたが、現在は不妊外来を中心とした診療を行っております。昨年末までに2838名の不妊患者さんが来院され、1314人が臨床妊娠しておられます。体外受精、顕微授精などの採卵数は901例でした。本年に入ってまた患者さんが随分増え、だいたい毎月100人程の不妊新患があり、50人ほどが妊娠されるといったペースになっています。今年の400例程度。外来患者数は多い日には250人近くになります。 <スライドお願いします。> これは当院不妊外来の妊娠率です。 <スライドお願いします。> ここにお示ししておりますのは、当院における不妊治療の流れです。 <スライドお願いします。> これは当院不妊外来に来院されたすべての患者さん、2838例の予後です。 <スライドお願いします。> まず、人工授精についてお話します。人工授精は夫の精子を用いる配偶者間人工授精AIHと、提供された精子を用いる非配偶者間人工授精、AIDの2種類がありますが、一般に人工授精といえば配偶者間、すなわちAIHのことをいいます。精液からさまざまな方法を用い運動性良好な精子を回収し、子宮腔に注入します。当院での費用は12000円です。 <スライドお願いします。> これは当院におけるAIHの成績です。男性因子、頚管因子、原因不明不妊などに行なわれ、平成8年の1年間の576例では7.5%の妊娠率になっています。本年の1月から10月まででは1300例程のAIHを行い、妊娠率は6.7%でした。 通常のAIHについては特に倫理的な問題はないと考えています。 <スライドお願いします。> 次に体外受精ですが、両側卵管閉塞などがある場合、卵巣から卵子を取り出し、体外で夫の精子を媒精し、インキュベーター内で受精、分割した胚を子宮に戻す方法です。 <スライドお願いします。> <スライドお願いします。> これは当院の体外受精、顕微授精、凍結胚移植の成績です。臨床妊娠率は体外受精が採卵あたり21.7%、顕微授精が19.9%、凍結胚移植が26.7%、生産率は、体外受精が18.2%、顕微授精が14.0%、凍結凍結胚移植が18.9%となっています。日本全体の成績もだいたいこんなものと理解して頂いて結構かと存じます。ちなみに、当院での体外受精の費用は、外来の保険のきかない注射などすべて含めて33万円程度、顕微授精は43万円程度になります。 <スライドお願いします。> 日本の実施周期数です。黄色が体外受精、赤が顕微授精、青が凍結胚移植の周期数です。平成8年で、すでに年間の採卵周期数が40000件を越えています。現在の日本のすべての出生児のうち、体外受精児、顕微授精児が百数十人に1人程度になっており、そのうちに、小学校の各クラスに1人は体外受精などによる妊娠で生まれてきた子供になると思われます。 <スライドお願いします。> 最近では、射出精液中に精子が全くいない無精子症でも妊娠できるようになっています。無精子症は、当院では、2800例のうち、20例程度で、全不妊カップルの1%以下です。当院を含め、不妊専門クリニックでは、精巣上体や精巣内の精子を用いての顕微授精まではごく一般的に行なわれています。後期精子細胞を用いた顕微授精は、ごく一部の施設で行なわれているようです。円形精子細胞を用いた顕微授精は、不妊学会倫理委員会から、現在のところは行なわないようにと勧告されています。実際、外国のデータでは円形精子細胞を用いた顕微授精では、出生児に高頻度で奇形がみられたとの報告があります。 第三者の精子を用いた人工授精、AIDは、慶応大学をはじめとするいくつかの施設でのみ行なわれておりますが、AIDを受ける患者数は不妊患者全体の中では極一部です。提供精子を用いた体外受精は認められておりません。 <スライドお願いします。> 生殖医療の特殊性について考えてみたいと思います。 まず、生殖医療は家内工業である。 <スライドお願いします。> しかし、これは一方では大きな問題になります。この分野急速に進歩しています。他の分野の先端医療で新しい技術が導入される場合には、たぶん大学医学部や医科大学の倫理委員会が、行き過ぎに対する歯止めをかけてくれるでしょう。しかし、多くの不妊クリニックは、新しい技術をいつでも実行に移す力がある反面、倫理委員会が機能していないところがほとんどです。このため、外国の文献に掲載された技術が、倫理的な検討なしに、院長の裁量ですぐにそのまま臨床応用されうるのです。 <スライドお願いします。> これは、日本における生殖補助医療の実施施設数です。平成8年の段階で300施設ですが、現在はすでに400施設を越えています。当院は年間採卵数400例程度で、採卵数からみれば全国で10〜15番目あたりですが、当院より症例数が多い施設はすべて個人不妊クリニックで、大学病院で当院より多くの症例を扱っている施設はありません。また、他の国では体外受精施設のセンター化が進んでいるのに対し、本邦では体外受精を扱う施設数が、患者数に比して非常に多いのが特徴になっています。 <スライドお願いします。> その他いくつかの問題を考えてみたいと思います。 まず、多胎、減数中絶について考えてみたいと思います。 しかし、多胎ができるのは仕方がない。沢山できてしまえば減数中絶をすればよいというので良いのでしょうか。 当院の不妊外来の通算妊娠数はそろそろ1900例になりますが、この中で3胎が4例あります。すべて分娩を終え母児ともに全く元気にしています。4胎以上はありません。私は4胎以上の多胎妊娠はほとんど防げると思っています。体外受精では戻す胚の数を制限する事により4胎以上の妊娠の可能性はまずなくなります。3胎もほとんどなくすことができると思います。排卵障害に対する排卵誘発剤の使用では、どうしても4胎以上がおこる可能性がありますが、これも色々努力することによりほとんどの場合で防ぐことが可能だと思っています。 <スライドお願いします。> さて、次に適応について考えてみたいと思います。 <スライドお願いします。> 日本産科婦人科学会の会告では、体外受精はこれ以外の医療行為によっては妊娠成立の見込みがないと判断されるものを対象とするとなっています。この判断基準が各施設によって異なっています。 <スライドお願いします。> ARTとは体外受精などの生殖補助医療の事をいいます。病院によっては、来院された患者の大部分にARTを行なっているところもあるようですが、当院ではARTを行なっている患者は全患者の11.5%にすぎません。そして、ARTを行なった患者のうち約60%が妊娠、約40%は妊娠せず、そして、ARTを行なった後にART以外の方法で妊娠した患者は4%のみでした。これからみて、当院では、ほぼARTを必要とする患者のみにARTを行なっていると考えてよいと思っています。しかし、最近は非常に安易にARTが選択されている様に思います。 <スライドお願いします。> 患者は妊娠したいから不妊クリニックにくるのであるから、少しでも妊娠率の高い方法、すなわち体外受精や顕微授精を行なうべきだという意見もあります。しかし、体外受精や顕微授精には多胎や卵巣過剰刺激症候群の問題があります。採卵に伴う危険もあります。医療費も高額になります。次世代への影響もわかっていません。やはり、本当に必要な人にのみ行なうべきでしょう。 <スライドお願いします。> 顕微授精についても適応が甘くなっているように思います。 これは、当院の男性不妊の患者さんがどのような方法で妊娠したかを示しています。 どの症例にどのような生殖医療を行なうかは、それぞれの不妊クリニックの医師の裁量に任されておりますが、生殖医療の適応が最近随分甘くなっている様に思います。 <スライドお願いします> 最後に配偶子の提供について考えてみます。 この問題に関しては、吉村教授や私が委員をしております、厚生科学審議会先端医療技術評価部会生殖補助医療技術に関する専門委員会で検討中です。 実地医療の立場から、生殖医療に関する問題をお話させていただきました。 ご静聴ありがとうございました。 |
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