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------------------------------------------------------------------------------- 不妊治療において、ステップアップがどうして必要なのかについてお話しします。 不妊症には、大きくわけて二つのタイプがあります。 一つは、Sterilityといって、医学の助けなしには妊娠が不可能なタイプです。無精子症や、両側卵管閉塞、無排卵症などがこれにあたります。 もう一つは、Subfertilityといって、絶対的な原因はないけれども妊娠しにくい状態をいいます。排卵が起こりにくい、卵管の通りが少し悪い、子宮内膜症がある、精子の数が少し少ない、あるいは全く原因となりそうなものがない、このような場合です。不妊の大部分は、このタイプに入ります。 Sterilityの場合には、原因に対する治療を行う事になります。両側卵管閉塞の場合には、卵管の手術、体外受精など。無排卵症の場合には排卵誘発剤。無精子症の場合には、精路再建術や精巣内の精子を使った顕微授精、場合によりAIDなどが選択されます。 これに対し、Subfertilityの場合には、Sterilityのような単純明快な治療方針はたてられません。もちろん、まず最初に、原因となりそうなものに対する治療を行なう事になります。排卵が起こりにくい人には、排卵誘発剤。精子の少し少ない人には漢方薬、黄体機能の弱い人には黄体ホルモン剤などが投与されます。しかし、もしかするとこれらの治療をしても意味がないのかもしれません。これらが絶対的な不妊因子でない以上、他の不妊原因のために妊娠しないのかもしれないからです。 それでは、もっと色々検査をして、不妊原因をつきとめればよいではないか、という事になります。しかし、大抵の場合、それは無理なのです。現在、アメリカやヨーロッパの不妊学会で、意味のある検査とされているのは、排卵の検査、子宮卵管造影または腹腔鏡、精液検査。この3つだけです。これ以外の検査は、本当に意味があるかどうかわからない、あるいはしても意味がないとされているのです。ですから、Subfertilityの不妊原因を、検査を増やす事によりつきとめる事はできないと考えるべきなのです。 それでは、原因もはっきりしない不妊に対し、どのような治療を行なう事になるのでしょうか。 排卵期に性交がないと妊娠できません。不妊のカップルには、軽度の排卵障害があり排卵日がよくわからなかったり、排卵日を全く違う日と思い込んでいる場合があります。性交回数が少なくなっている事も多く、タイミングが合わないため妊娠のチャンスを逃しているケースも随分多いようです。排卵のタイミングを正確に指導し、すべての周期にすこしでも妊娠の確率を上げるようにする、これが「タイミング指導」です。私のところでは、このタイミング指導を原則として8ヶ月〜1年続けます。 人の場合、夫婦とも問題なく、排卵の頃に毎月性交があっても、一周期あたり妊娠できる確率は20%です。毎周期妊娠できるわけではありません。そのため、治療が有効かどうか判断するためには、同じ治療をある程度の期間続ける必要があるのです。しかし、不妊原因となりそうなものに対する治療を行いながら、タイミング指導を約1年行なっても妊娠しない場合には、それ以上タイミング指導を続けてもほとんど妊娠に至りません。1年もみれば、この方法で妊娠できる人はほとんど妊娠し、妊娠しない人は、そこまでの治療では妊娠できない原因があると考えられるのです。 当院では、次のステップとして、人工授精(AIH)を行なっています。AIHは、精液から運動性良好な精子を集め、子宮腔に注入する方法です。乏精子症や、頚管粘液が不良な場合にも行ないますが、タイミング指導を8ヶ月〜1年行なっても妊娠しない場合の、次の段階の治療としても行なっています。 AIHを行なう事により、自然妊娠の過程のうち、「性交、射精、精子が頚管粘液の中を通過し子宮卵管口まで到達する」という部分がバイパスされます。すなわち、この過程に妊娠しにくい問題があった場合には、AIHにより不妊原因が解消されるのです。AIHの1回あたりの妊娠率は、約7%ですが、5回〜8回行なった場合の累積妊娠率は25%程度になります。しかし、この治療で妊娠するのも8回目くらいまでで、その後の累積妊娠率は頭打ちになってしまいます。AIHを8回行なっても妊娠しない場合には、AIHによっても解消しない問題があると考えるべきでしょう。 次のステップは体外受精(IVF)になります。IVFでは、卵胞が成熟するところから、受精した卵が子宮に入るまでの長い過程がバイパスされます。この間に不妊原因があった場合、例えば、卵管が閉塞してる、重症の子宮内膜症がある、卵胞が破裂しない、卵管采がうまく卵子を捕らえられない、などの場合でも、IVFを行なうことにより不妊原因が解消されるのです。IVFの1回あたりの妊娠率は25%程度と、AIHやタイミング指導などと比べてかなり高くなります。しかし、IVFも何回かすると累積妊娠率が頭打ちになります。その場合の対処については、向田先生が講演して下さると思います。 それぞれのカップルの不妊原因を検査によりつきとめるのは、非常に難しい事です。場合によっては、受精障害など、体外受精をして初めて不妊原因が判明する事もあります。軽い治療から開始し、ある程度続けても結果が出なければ、その治療では解消できない不妊原因があると考え、もう一段階上の治療に上げていく。すなわち、バイパスする範囲を広げていく。このような方針で治療を行えば、現在の不妊治療で妊娠できる人のほとんどが妊娠でき、しかも、それぞれのカップルの必要最少限の治療で妊娠が可能となるのです。 |
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