梅ヶ丘産婦人科 辰巳賢一

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 それでは、男性不妊、産婦人科と泌尿器科との役割分担という話をさせていただきます。

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 本講演は昭和大学泌尿器科の吉田教授、渡辺助教授、坂本講師をはじめとする不妊グループと当院との共同研究であります。

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 まず、当院の現状について紹介いたします。

 当院は院長と私の2名の医師がおります。私が平成3年に当院に参りまして不妊外来を開設しました。以前は分娩も扱っておりましたが、現在は不妊外来を中心とした診療を行っております。昨年末までに2838名の不妊患者さんが来院され、1314人が臨床妊娠しておられます。本年に入ってまた患者さんが随分増え、だいたい毎月100人程の不妊新患があり、50人ほどが妊娠されるといったペースになっています。今年の採卵数は400例程度。一日患者数は多い日には250人近くになります。

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 これは当院不妊外来の妊娠率です。

 2838例全例では46.3%、1年以上前に初診した1959例では55.2%の妊娠率になります。

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 さて、私は不妊治療でもっとも大事なことは、それぞれのカップルの必要最小限の治療で妊娠していただくことだと考えております。最初から、すべての不妊患者にIVFやICSIを行なえばきっと高い妊娠率が得られるでしょう。しかし、IVFやICSIには多胎やOHSSの問題があります。採卵には危険を伴います。治療費も高額になります。次世代への影響もわかっていません。やはりIVFやICSIは本当に必要な患者のみに行なうべきで、まず、最初はできるだけ自然に近い妊娠を目指すべきでしょう。

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 さて、男性不妊へのアプローチは泌尿器科と産婦人科で随分違います。

 泌尿器科は、精液所見を改善するということが最も重要な仕事になります。最近はTESEやMESAにより産婦人科に精子を提供するという機会も多くなっています。これに対し産婦人科は、現在ある精子を利用して妊娠に結びつけるという事が仕事になります。具体的な方法としては、まずタイミング指導、ついでAIH、そしてIVF、ICSIということになります。

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 これから、私が産婦人科と泌尿器科が男性不妊で連携する場合に特に重要と考えることを5つお話させていただきます。まず最初に当院と昭和大学泌尿器科との連携の成果についてお話します。

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 私と昭和大学泌尿器科との連携は昭和62、3年に始まります。当時私は京都大学IVFチームのラボチーフをしておりましたが、京大でIVFを受ける患者の夫が精路閉塞により昭和大学で人工精液瘤をつけるというので、京都から昭和大学にお邪魔し、吉田助教授、現教授の手術に入れて頂きました。この患者さんは、結局はうまく受精しなかった様に記憶しておりますが、現在ならMESAによりきっと妊娠できたと思います。その後、私が東京に参りまして、当院と昭和大学泌尿器科との連携が始まった訳です。

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 当院と昭和大学泌尿器科との連携には2つのパターンがあります。

 第一のパターンは当院に来院された患者さんのうち精液所見の悪い症例を昭和大学に紹介し治療してもらうというパターンです。第二は当院とは関係なく、まず昭和大学泌尿器科を受診され、昭和大学で男性不妊治療を終えた患者さんを当院に紹介していただくというパターンです。

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 まず第一のパターンである、当院から昭和大学泌尿器科を紹介した例が116例あり、うち33例が妊娠、妊娠率は28.4%になっています。一方、第二のパターンである、昭和大学から治療後の症例を紹介いただいた例が71例あり、うち35例が妊娠、妊娠率が49.3%になっています。随分妊娠率に差がありますが、この原因を考えてみるに、最初に当院に妻が受診され、夫の検査の結果男性に問題があるとわかった場合には、あまり心の準備ができていないせいか、泌尿器科を紹介してもなかなか長続きしない、そのうちになんとなく夫婦とも不妊治療から遠ざかってしまうといったパターンが多い様に思います。これに対し、最初に泌尿器科で治療を済ましたのちに当院に来院される夫婦は、治療に熱心で、ICSIやAIHも覚悟の上で来院されている場合が多く、脱落例も少ないため高い妊娠率になったものと考えております。

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 さて、これは、丸1、当院から泌尿器科を紹介、丸2泌尿器科から当院を紹介という2つのパターンの場合、どのような方法で妊娠が成立したかについて精子濃度別に見たものです。縦軸が精子濃度ですが、一般に精子濃度が500万未満になるとICSIが必要と言われています。白丸が妊娠しなかった例、赤丸がICSI妊娠、黄色四角が体外受精妊娠、青三角がAIH妊娠、緑丸がタイミング指導妊娠、青四角が自然妊娠です。まず丸2の、昭和大学において治療を受けた後に当院を紹介された症例について検討します。精子濃度500万/ml未満の妊娠例のすべては赤丸、すなわちICSIによる妊娠になっています。すなわち泌尿器科治療後にもかかわらず精子濃度500万/ml未満の場合には妊娠例全例がICSI妊娠になったわけです。

 一方当院から昭和大学に紹介した例で、泌尿器科紹介時の精子濃度が500万/ml未満、すなわち泌尿器科治療前の精子濃度が500万/ml未満の症例を見てみますと、赤丸のICSI以外にIVF、AIH、タイミング指導、自然妊娠までがICSIとほぼ同数に見られることがわかります。すなわち、当初精子濃度が500万未満でICSIが必要と考えられた症例のうち、妊娠例の半数は、泌尿器科治療により、ICSI以外の治療で妊娠しているのです。

 妊娠しなかった例も含めて考えると、治療前の精子濃度が500万/ml未満の乏精子症の24%はICSI以外の方法で妊娠できたわけです。

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 これは、運動精子濃度からみた、精液所見不良例の妊娠方法の比較です。運動精子濃度は精子濃度x精子運動率で表され、運動精子濃度が350万未満になるとICSIが必要といわれています。泌尿器科治療後の運動精子濃度300万未満の症例はすべてICSI妊娠に対し、泌尿器科紹介前の運動精子濃度300万未満の症例の半数以上は、タイミング指導やAIHなどのICSI以外の方法で妊娠できています。

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 これは、精子濃度が500万未満で、当初はICSIが必要と考えられていた症例で、泌尿器科治療により、ICSI以外の方法で妊娠できた例の治療法などを示しています。薬物療法や手術療法により精液所見が劇的に改善する例があるのがわかります。

 このように、ICSIが日常一般治療として定着した現在でもなお、泌尿器科治療がいかに重要かということがわかります。これは、特に産婦人科の先生にお願いしたい事ですが、精液検査でICSIが必要と考えられても、年齢的に余裕がある場合には、まず、泌尿器科に治療を依頼していただきたいと思います。

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 次に当院における男性不妊に対するAIHの成績をお示しします。

 当院ではAIH時の原精液の運動精子濃度が1000万/mlの症例に対してはミニアイソレイト法という方法で精子調製を行なっています。1998年1月から1999年7月までの間に494回のAIHを行い32周期が妊娠しており周期あたりの妊娠率は6.5%になります。周期あたり6.5%の妊娠率というとかなり低いと思われるかもしれませんが、精液所見不良例のみを対象としての成績としてはむしろかなり良い結果と考えています。

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 これが当院で精液所見不良例に用いているミニアイソレイト法です。

 90%アイソレイト0.3mlに45%アイソレイト0.5mlを重層し、その上にPBSで希釈した全精液を重層し2000回転20分遠沈すると、運動精子が非常に高い回収率でペレットになります。これをPBSで洗浄、再懸濁しAIHに用います。これまでにいろいろな方法を試してきましたが、この方法が最も精子回収率がよく、妊娠率の高い方法でした。

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 これがこのAIHの結果です。縦軸が精子濃度、白丸が非妊娠周期、赤丸が妊娠周期です。精子濃度600万あたりから妊娠例がでてきます。

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 これはもっと前に調べた時のものですが、精子濃度300万あたりからAIH妊娠例がでています。このように精子濃度500万前後になると、AIHにより妊娠が可能になります。

 泌尿器科の先生にお願いしたいことは、精子濃度500万/mlを目標にして精液所見を改善していただきたい。このあたりにまでなれば、何とかAIHなどによる妊娠が期待できる。逆に治療をはじめても、500万/mlのレベルになりそうになければ、早い目にICSIに回していただきたいと思います。

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 次にICSIの成績についてお話します。

 これは最近2年間の当院のIVFとICSIの成績です。ICSIをはじめた当時はICSI妊娠率の方がIVFの妊娠率よりはるかに高かったのですが、レピーターが増えるにしたがってICSIの成績が落ち、最近では、IVFが採卵あたりの臨床妊娠率29.7%、生産率24.2%に対し、ICSIは臨床妊娠率23.8%、生産率15.7%となっています。

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 日本の統計や世界の統計でも、ICSIの妊娠率は採卵あたり20〜25%、生産率が15%程度となっています。非常に高い妊娠率を報告している施設もありますが、一般的にみてこの程度の妊娠率だということを泌尿器科の先生方に認識しておいていただきたいと思います。

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 次に当院と昭和大学泌尿器科との連携で行なっておりますMESAとTESEの方法についてお話します。

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 無精子症のうち、精巣内に精子が存在すると予想される症例には精巣生検の際に精巣を2、3箇所から50mg程切除し、妻に当院まで運んできてもらいます。当院ではTESEを行い、精子を探した後に、数回分に分けて凍結保存してしまいます。MESAの場合も同様、手術室から妻に当院まで精巣上体精子を運んでもらい、数本に分けて凍結保存します。昭和大学で予後不良と考えられる精巣上体―精管吻合術や、精管精管吻合術が行なわれるときは、術中に出てきた精子を妻に当院まで運んでもらい、当院で凍結保存します。

 そして後日改めて妻に排卵誘発を行い、凍結融解した精巣精子や精巣上体精子を用いてICSIを行なっています。

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 TESEとMESAの成績です。MESAは4症例に対し6回のICSIを行い3周期で妊娠、3周期とも継続妊娠。TESEは5症例に対し6回のICSIを行い3周期で妊娠、うち2周期が継続妊娠です。症例数が非常に少なくて何ともいえませんが、少なくとも精子を一旦凍結保存して、後日融解して使用するという方法でも十分満足すべき成績を得る事ができています。TESEもMESAも新鮮な精子を用いたほうが良いという報告もあるようですが、我々は自分たちのデータから、精子を一旦凍結することにより、お互いに忙しい泌尿器科と産婦人科がスケジュールを無理にあわして、精子採取と卵子の採取を同時に行なう必要はないと考えています。

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 最後に女性の年齢と妊孕力についてお話します。特に泌尿器科の先生に知っておいていただきたいと思います。

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 これは当院不妊外来患者2838名の初診時の妻の年齢と生産率、すなわち、元気な赤ちゃんを生んだ人の割合です。初診時年齢が25歳未満の不妊患者の46.9%が赤ちゃんを産むことができます。25〜29歳では48.2%、30〜34歳では41.0%、35〜39歳になるとぐっと落ちて30.5%、40歳以上で初診された方のうち、元気な赤ちゃんを産める人の割合は6.0%になってしまいます。

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 我々は妊娠率を問題にしがちですが、流産率も重要な問題です。これは当院の臨床妊娠例1314例の各年齢における流産率を見たものです。青棒グラフが妊娠数、黄色折れ線が流産率を示しています。流産率は31歳から20%を超え、35歳から30%程度になり、39歳では40%を超え、43歳以上のすべての症例が流産になってしまいます。

 先ほどの生産率、このグラフの流産率を見ても明らかなように、不妊治療において、妻の年齢は最も重要な因子です。男性不妊の場合も、妻の年齢を常に意識しながら治療をすることは非常に大事な事です。

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 以上の検討により次の結論を出したいと思います。

 高度乏精子症の場合にも、ICSIを行なう前にまず、泌尿器科による治療を行なうべきである。たとえ精子濃度が500万/ml未満でも泌尿器科治療により多くの症例でICSI以外の妊娠が可能となります。

 精子濃度500万/ml程度にまで改善すれば、AIHなどの方法による妊娠も可能となる。

 男性不妊の場合、精子濃度500万/ml程度に改善できるかどうかがひとつの大きなポイントになります。

 男性不妊の場合にも、女性の年齢が35歳を越えると急速に妊孕力が低下する事を念頭に置いて治療を行なわなくてはならない。男性不妊治療を行なっている場合にも常に妻の年齢を意識してください。

 以上、私が男性不妊について、産婦人科と泌尿器科が連携する場合に特に重要と考えることを述べさせていただきました。産婦人科医と泌尿器科医が、お互いに協力し、それぞれの役割を認識し、完遂することにより、より質の高い男性不妊治療が可能となると思います。

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 謝辞はスライドに代えさせていただきます。

 ご静聴ありがとうございました。