梅ヶ丘産婦人科 辰巳賢一 <不妊症の検査5〜10年前> この10年間のARTの急速な普及により、不妊症における検査もかなり変わりつつある。筆者は、1996年のOGCCP3巻2-3号の「不妊―ルーチン検査として何を行なうか」において、WHOのマニュアル、AFSの指針、KeyeらのTextbookなどにおいて勧められている不妊検査を解説した。まず、5〜10年前のルーチン検査として、これらを引用し、その後、現在までにどのように考え方がかわっているかを検討する。 WHO Manual for the Standardized Investigation of the Infertile Couple(Rowe et al,1993) 全身の診察、内診、必要に応じ腟、子宮頚管の細菌学的検査を行なう。CBC、尿一般検査により、他の内科的疾患の有無を調べる。風疹抗体の検査も勧めている。排卵および内分泌の検査として、血中PRL値を測定する。もし正常範囲を越える高い値がでれば再検し、低い方の値をとる。月経異常、高PRLの患者には甲状腺機能検査を行なう。無月経の患者には血中E2の測定を行い低値であるか、またはプロゲステロン負荷試験により消退出血が起こらなければ、血中FSHを測定しPOFであるかを診断する。排卵の有無を判断するために血中Pを測定する。BBT、超音波による卵胞の観察、子宮内膜組織検査も排卵の状態を見るために使われるが、主となるのは血中P値である。子宮内膜の結核性病変が疑われる場合には、子宮内膜の組織検査、または月経血培養を行なう。卵管の疎通性検査のためには、腹腔鏡、またはHSGを行なう。HSGでは子宮腔の状態や卵管の閉塞している位置、卵管の太さなどの情報を得る事ができる。腹腔鏡は腹腔内の状態を詳細に知ることができる。子宮内膜症の診断は腹腔鏡、又は開腹時にしかできない。PCTはそれなりに有用な検査と位置付けられている。 AFS: Investigation of the Infertile couple (American Fertility Society, 1992) BBT、子宮内膜日付診、血中Pにより排卵の有無を判断する。排卵異常や黄体機能不全の疑いのある場合、あるいは無排卵の場合には、血中PRL,甲状腺機能検査を行なう。無排卵の患者にルーチンに血中LH、FSHの検査をするのはcost-effectiveではない。また、多毛や男性化徴候のない患者にアンドロゲンの検査を最初から行なう必要もない。プロゲステロン負荷試験を行い、消退性出血を認めない患者には血中FSHを測定しPOFであるかどうかを判断する。頚管因子としては、その有用性について論争があるもののPCTを行なう。卵管、腹膜、子宮因子については、HSG、腹腔鏡、子宮鏡を行なう。 Keyeら編のTextbook (Glass, 1995) 月経周期が規則的な婦人に血中gonadotropinや甲状腺機能検査を行なう必要はない。また、LUFの診断のために一周期に数回の超音波による卵胞の観察をするのは、他の検査で異常が見られない場合に限って行なうべきである。排卵前に血中E2を測定するのも、正常値のばらつきが大きいため意味がない。排卵因子として、BBT、および血中P値、又は子宮内膜日付診を行なう。排卵時期を推定するには、薬局販売の尿中LH試薬を、また、排卵の確認のためには、薬局販売の尿中プレグナンディオール試薬も有用である。血中P値が15ng/ml以上ある場合には、子宮内膜日付診をあとまわしにしても良い。PCTは有用と考えられている。PCTが悪い場合には抗精子抗体の検査を行なう。卵管因子としては、HSG、腹腔鏡があり、腹腔鏡の際に子宮鏡も行なう。HSGは信頼度が低いため腹腔鏡のみを行なうという人もいるが、HSGが正常であった場合には、6ヶ月以内に30-50%のケースが妊娠するため、まずHSG、精液検査、PCT、排卵のチェックを行い、ある一定期間様子を見て妊娠しない場合に腹腔鏡および子宮鏡を行なう。 これらは女性側のみの部分をサマリーしたものであるため、不妊検査には、これに精液検査が加わるのは言うまでもない。それぞれ、考え方の違いがあるが、ルーチン検査としては、精液検査、排卵に関する検査(子宮内膜日付診を含む)、PCT、HSG、腹腔鏡、子宮鏡などをあげている。 この時代にWHOやAFSから不妊症の検査に関するガイドラインが出された背景には、この頃、不妊症の検査や治療に関して多くの研究や臨床応用が行なわれ、その結果、高額で不必要な検査や治療も広く行なわれ始めてきた(Jaffe, 1991)事に対する牽制の意味もあったのかもしれない。 その後1996年になってESHRE からもガイドライン が出された(ESHRE Capri Workshop, 1996)。この中で強調されているのは、ある検査で異常が出た場合、その原因に対する治療を行なう事により、治療をしないより妊娠率が上がる場合のみ、その検査が有効な検査として認められるという事である。そして、厳密な文献的考察の結果、このグループが有効と判断した検査は、精液検査、HSGまたは腹腔鏡による卵管の疎通性検査、そして、排卵の検査のみであった。腹腔鏡は、卵管の通過性のみならず、子宮内膜症や癒着などの病変も見つけることができる事が強調されていた。 <不妊症の検査−現在の考え方> ESHRE Capri Workshopから現在までの5年間にARTが更に普及した。すべての検査は、一般不妊治療の過程で行なわれるのにもかかわらず、後にARTを行なうという事を前提に行なわれるようになってきている(Balasch, 2000)。それに伴い、検査法の評価も変化しつつある。各検査法の現在の評価について述べる。 精液検査 精液検査については、通常の検査としても、また後のARTを前提にした検査としても、評価されている。(Helmerhorst et al, 1995, Glatstein et al, 1997)。しかし、精子の受精能力との相関があまり高くないという理由で、最近では、Krugerのstrict criteria(Kruger et al,1986)を用いる施設が増えている。しかし、精子の機能を正しく評価できる通常の検査はない(Barratt et al, 1998)。ハムスターテストも現在では妊娠の予後と相関しないとされている(Zayed et al, 1999)。精子の受精能を正しく評価できるのは、in vitroにおける人の精子と人の卵子の受精テスト、すなわちIVFである。精子の受精能を評価するために色々な検査を行なう必要があるのなら、早めにIVFに移ったほうが、時間的にも費用的にもeffectiveである(Speroff et al,1999)。 排卵 排卵しているかどうかを調べる検査としては、BBT、血中P、子宮内膜日付診が主とされている。日本においては、むしろ経腟超音波が主に用いられており、これがもっとも直接的に排卵を確認できる方法と思われるが、諸外国では日本ほど頻回に経腟超音波をできる環境にないのかもしれない。 HSG HSGは子宮と卵管の状態を調べるためにまず最初に行なう検査として広く用いられている。HSGと腹腔鏡のどちらが卵管検査として価値があるかを、きちっとrandomizedして調べた報告はない。(Helmerhorst et al, 1995)しかし、HSGは腹腔鏡より侵襲の少ない検査であり、子宮腔、卵管の状態を調べるために、重要な検査と位置付けられている。また、HSGの後1年以内に妊娠する確率は、油性造影剤を用いた場合には41.3%で、水性造影剤を用いた場合は27.3%と、油性造影剤を用いることにより妊娠しやすい状態を作ると報告されており(Gillespie, 1965)、他のレビューでも同様の結果となっている(Soules et al, 1982)。 性交後試験 EBMによれば、この検査は妊娠の予後に関係しないと言われている。(Griffith et al, 1990, Helmerhorst et al, 1997, Oei et al, 1998、Zayed et al, 1999)。しかし、臨床経験からはPCTの結果と妊娠率とは強い相関があるという報告も多い( Hull et al, 1982, Eimers et al, 1994, Hall et al, 1995, Cohlen et al 1998) 。また、不妊期間が3年以内の場合には、PCTは不妊の予後と相関するという報告もある(Hull et al, 1998)。 最近は早い時期に過排卵+IUIによる治療へ移行すため、PCTをしてもしなくても、治療方針はかわらない為、PCTは意味がない(Speroff et al,1999)という意見もある。確かに、頚管因子であろうが原因不明不妊であろうがIUIあるいはIVFをすれば解決するのだからPCTは必要ないかもしれない(Hull,1992)。 しかし、頚管因子の場合には、過排卵を併用しなくても、自然周期のIUIを3〜4回行なう事により40〜50%の累積妊娠率を得る事ができ(Davajan et al, 1983) 、頚管因子か原因不明かを鑑別する事は重要である。また、PCTが悪ければ、抗精子抗体の検査に移り、これが陽性であればIUIをしても意味がない。また、PCTが悪い場合に、精子に対して毒性のある潤滑ゼリーを使用している可能性もあり、潤滑ゼリーを替えるだけで妊娠できる事も多い。また、検査も簡単で、侵襲もない。このような意味で、否定的な報告は多いものの、PCTは、現在なお行なう意味のある検査であろう。 腹腔鏡 腹腔鏡は不妊検査の重要な基本的な検査とされてきた。しかし、体外受精の妊娠率が向上し、腹腔鏡を経ずにARTに移る事も適切であると考えられるようになってきた(Speroff et al, 1999)。IVFというオプションができた現在、HSGで卵管の通過性の確認されている患者に侵襲的な腹腔鏡をするように説得するのが難しくなってきた。患者は、むしろIVFを選択するようになっている(Hovav et al, 1999)。 他の検査では正常と考えられる不妊患者の多くに、腹腔鏡をすると、子宮内膜症や腹腔内癒着がみつかる。癒着のみが不妊原因と考えられる場合には、腹腔鏡で癒着をはがすのが最も良い効果を上げる(Posaci et al 1999)という報告がある一方で、卵管が通っている場合には、骨盤内の癒着は大きな問題ではなく、腹腔鏡を受けるかどうかは、患者の選択に任せるべきであるという意見もある(Collins、1998)。 いくつかのprospective studyでは、minimal or mild endometriosisの存在は、不妊婦人とそうでない婦人とで同じ頻度であった。(Rawson, 1991, Balasch et al, 1996)。そして、手術中にminimal or mild endometriosisを焼いても、妊娠率に対しては、あまり効果が期待できないという報告が多い(Marcoux et al 1997, Gambone et al, 1997, Berube et al, 1998, Tummon et al, 1998, Gruppo Italiano per lo Studio dell’Endometriosi, 1999)。 このように、最近、腹腔鏡によってのみ見つかるような病変に対する治療の効果を疑問視する報告が多い一方で、体外受精やGIFTの前に長期間GnRHaで子宮内膜症を治療すると、妊娠率が向上するという報告もある(Dicker et al, 1992, Guzick et al,1994, Marcus et al, 1994)。 数年前までは、日本でも、腹腔鏡をしない不妊治療は考えられないという風潮であったが、最近、腹腔鏡検査に対する評価がかなり変わってきているようである。 子宮内膜組織学的検査 着床期の子宮内膜の受容性は重要であることはわかっているが、組織学的、そして生化学的な子宮内膜の反応を評価する適切な方法はない(Balasch et al 1992, Edwards, 1995, Creus et al, 1998, Giudice, 1999)。従来からの子宮内膜日付診は、同一の人が判定しても、結果が一致しない事が多く(Li T-C et al ,1989)、また、out of phaseという結果が出ても、それはその周期だけに偶然起こったものかもしれない(Batista et al ,1993)。このような診断の不確実性から、患者に費用と痛みを与える子宮内膜組織学的検査を行なう事には否定的になりつつある。そして、黄体機能不全の診断は、むしろ血中Pから診断されるようになってきている(Speroff et al, 1999)。 子宮鏡 現在のところ、不妊症のルーチン検査の一つとはみなされていないようである。しかし、子宮鏡は、子宮内膜ポリープや粘膜下筋腫などの子宮腔の病変を調べるのに、重要な検査である。経腟超音波でもある程度の病変は見つけることができるが、sonohysterography では子宮鏡と同程度、あるいはそれ以上の情報が得られる可能性がある。しかし、子宮鏡は子宮鏡下手術により病変の治療も行なう事ができる。ARTを用いても、子宮腔の病変はバイパスすることはできない。このため、子宮鏡は今後、sonohysterographyと共に、更に重要な検査として位置付けられるようになるかもしれない。 以上、現在行なわれている主な検査についてレビューした。 この数年の間にARTが急速に一般化したことから、検査の結果がどうであれ、早めに過排卵+IUI、そしてARTに移るという傾向が強くなっている。これを反映して、以前ほど、不妊原因を徹底的に追求するという姿勢がなくなりつつある。何が何でも不妊原因を見つけて、それに対する治療を行うというのではなく、無理に原因を特定しなくても、妊娠という結果さえ出せれば良いという考え方である。また、ARTでバイパスできる部分に対する検査は省略するが、ARTの予後に重要な検査は、再評価されたり、新しく開発されたりしつつある。 <原因不明不妊> 原因不明不妊とは、不妊検査がすべて正常にもかかわらず、妊娠しない場合を言う。その頻度は6〜60%と報告によりかなりの開きがある(Templeton et al, 1982)。前述したような検査項目の減少傾向により、今後原因不明不妊のカテゴリーに入れられるカップルが増加していくと考えられる。PCTを行なわない施設では、頚管因子や抗精子抗体陽性が原因不明不妊となり、腹腔鏡を行なわない施設では、軽度の子宮内膜症や骨盤内癒着が原因不明となる。Crosignaniらによれば、腹腔鏡所見が正常という事を条件に入れれば、原因不明不妊は不妊の10%未満であるが、腹腔鏡を行なわなければ、10〜15%のカップルが原因不明不妊となる (Crosignani PG et al , 1993) 。 正常のカップルの1ヶ月あたりの妊娠率は30%であるが、原因不明不妊の1ヶ月あたりの妊娠率は1.5〜3%になる。不妊期間が3年を越えると、妊娠できる確率が、毎年24%づつ低下する(Crosignani PG et al , 1993)。不妊期間3年以内の原因不明不妊の60%は、待機療法により3年以内に妊娠する(Verkauf et al, 1983, Collins et al, 1989)。 <原因不明不妊 -対策> 過排卵刺激 原因不明不妊に対し、軽度の子宮内膜症を疑い行なわれる治療や、ブロモクリプチンによる治療は無効である。しかし、過排卵刺激、過排卵刺激+IUI、ARTは妊娠の可能性を高める(Zayed et al, 1999, Speroff et al, 1999)。 過排卵刺激は意味がある。しかし、過排卵刺激のみでは、費用はかからないものの、ARTに比べると妊娠の可能性は低い(Crosignani et al, 1992)。原因不明不妊の婦人には軽微なホルモン異常が存在するという報告がある。原因不明不妊患者にみられる、卵胞期の高gonadotropin、高E2、黄体期の低Pなどは、高齢婦人に見られような、卵巣の予備能の低下によるものである(Leach RE et al, 1997)。これゆえ、過排卵刺激は、原因不明不妊に対する合理的な治療である。6周期の過排卵刺激、または、3周期の体外受精により、原因不明不妊の累積妊娠率は40%になる(Simon A et al, 1993)。 Randomized controlled studyによれば、原因不明不妊の周期あたりの妊娠率は、クロミフェンの投与により2、3倍の9%になり、HMGの投与では大体10〜15%となる(Glazener et al, 1990, Deaton et al, 1990, Karlstrom et al, 1993)。 クロミフェンでは妊娠率が向上しないという報告もあるが(Fujii et al, 1997, Martinez et al, 1990)、原因不明不妊のカップルには、過排卵刺激を行なうべきである。ただし、それは3、4周期に留めるべきであろう(Speroff et al, 1999)。 過排卵刺激とIUI 原因不明不妊では、クロミフェンに加えてIUIを行なうと、自然周期で性交を行なった場合に比べ妊娠率が増加する(Deaton et al, 1990)。 しかし、原因不明不妊の場合は、自然周期にIUIをしても妊娠率は増加しない(Serhal et al, 1988, Chaffkin et al, 1991, Nulsen et al, 1993)。 HMG + IUIの方が、クロミフェン+IUIより高い妊娠率を得る事ができる。2つの報告による妊娠率は、HMG+IUIでは19%と14.3%であり、クロミフェン+IUIでは4%と7.7%であった(Karlstrom et al, 1993, Kemmann et al, 1987)。 HMG+IUIとHMG+タイミング指導を比べたmeta-analysisでは、HMG周期では、IUIを行なった方が2倍の妊娠率であった(Zeyneloglu et al, 1998)。 また、過排卵+IUIは、自然周期のICIの3倍の妊娠率であり、自然周期のIUIと過排卵+ICIの2倍の妊娠率であった(Guzick et al, 1999)。 このように、HMG+IUIは大変有効な治療手段であるが、一方、多胎やOHSSが起こる可能性も高くなる。HMG+IUIを選択する場合には、このような副作用が起こる可能性についてよく説明した上で治療周期に入る必要がある(te Velde, et al, 1999)。 Direct Intraperitoneal Insemination(DIPI) DIPIはForrlerによって始められた手技であり、原因不明不妊56周期の14%に妊娠が成立したと報告されている (Forrler et al,1986)。しかし、その後の報告では、あまり良い成績はみられず、Hovattaらによるrandomized studyによれば、IUIとDIPIの妊娠率に差を認めなかったとしている(Hovatta et al, 1990)。このようなことから、現在DIPIは原因不明不妊の治療としてIUIより有効とは考えられず、あまり行なわれていない。 GIFTとZIFT GIFTは本来、原因不明不妊が最も良い適応となる(Ash et al, 1984)。しかし、受精したかどうかを確認できないという欠点もある。過排卵+IUIとGIFTを比較した報告では、GIFTの方がはるかに妊娠率が高いというものと(Iffland et al, 1991)、両者に差を認めなかったというものがある(Abyholm T, 1992)。 また、GIFTとIVFを比較した報告では、両者の妊娠率に差を認めていない(Leeton et al, 1987)。GIFTは、腹腔鏡時に腹腔内を観察する事ができ、IVFより自然に近い妊娠となる反面、受精の確認ができず、IVFよりかなり侵襲が強い。一時原因不明不妊に対し広く行なわれたGIFTであるが、現在はIVFが主となり、あまり行なわれなくなってきている。 ZIFTはGIFTと異なり、受精の確認ができる。しかし、prospective randomized studyによれば、原因不明不妊に対するZIFTの妊娠率は、IVFの妊娠率より高くはなかった(Amso et al, 1991)。IVFの方がZIFTより侵襲が少なく、手技も煩雑ではなく、妊娠率が変わらないため、IVFよりZIFTを選択する施設は少ない。 IVF IVFは費用はかかるが、受精の確認ができる。HMG単独とIVFを比較した報告では、HMG単独の3周期の累積妊娠率が22%であったのに対し、IVFの妊娠率は1周期で17%あった(Simon et al, 1991)。原因不明不妊に対するIVFの周期あたりの妊娠率を、prospective, controlled and randomized studyにより調べたいくつかの報告では、13.8〜23%の成績であった(Audibert et al, 1989, Ashkenazi et al, 1989, Zayed et al, 1997)。原因不明不妊でIVFでも受精しない場合には、donor spermを用いる事により、卵子に原因があるのか、精子に原因があるのかを推定する事ができる。IVFは費用はかかるものの、原因不明不妊の最終段階の治療として、今後益々広く行なわれるようになるだろう。 結論 これらの原因不明不妊に対する治療法を、妊娠率、副作用、患者年齢、費用、治療に費やす時間、患者の希望などの観点から比較し、最善の治療法を選択する。 ESHREが1991年に行なった多施設共同研究によれば、原因不明不妊に対する治療周期あたりの妊娠率は、過排卵のみ:15.2%、過排卵+IUI:27.4%、過排卵+DIPI:27.0%、GIFT28.0%、IVF25.7%であった(Crosignani et al, 1991)。 また、最近のmeta-analysisによる各治療の周期あたりの妊娠率は、無治療:1.3〜4.1%、IUI:3.8%、クロミフェン:5.6%、クロミフェン+IUI:8.3%、HMG:7.3%、HMG+IUI:17.1%、IVF:20.7%となっている(Guzick et al, 1998)。 原因不明不妊に対し治療を行なう際には、原因不明不妊の自然妊娠率との比較を常に考えなくてはならない。3年以内の原因不明不妊の約60%は、待機するだけで3年以内に妊娠する。しかし、時間が経つにつれ、周期あたりの妊娠率は低下する。年齢の影響は、卵巣刺激法の種類を問わず重要な問題である。40歳以上のHMG+IUIの136周期を検討した報告では、43歳以上の患者には妊娠成立例がなかった(Corsan et al , 1996)。高齢の不妊婦人には妊娠するのに残された時間はない。治療の選択にあたっては、年齢が大きな要因となる。 現在の原因不明不妊に対する標準的な治療法は下記のようなものとなる。 Speroff ら (Speroff et al, 1999)の推奨する治療法: 比較的安価で、使いやすく、双胎率が2倍になるものの大きな副作用もないため、通常はクロミフェンが最初に用いられる。3、4周期クロミフェンを用いた後、次の段階に進む。クロミフェンにIUIを加えても、あまり妊娠率が上がらないので、クロミフェンの次には、15%の妊娠率を期待して、HMG+IUIに移る事が多い。もちろん、クロミフェン+IUIも、費用や副作用の点から見れば、適切な治療である。自然周期のIUIと、IUIを行なわないhMGは、原因不明不妊の治療法として勧められない(Chaffkin et al, 1991, Huges et al, 1997)。そして、HMG+IUIを数周期行なっても妊娠しない場合には、IVFをはじめとするARTに移る。 Zayedら(Zayed et al, 1999)の推奨する治療法 まず、クロミフェンまたはクロミフェン+IUIを4周期以下の範囲で行なう。次にHMG+IUIを3周期行なう。これでも妊娠しない場合には、ARTのどれかに移る。 演者の考え方 多胎、OHSSを避けたいため、できるだけクロミフェンやHMGを使用しない妊娠を目指す。8ヶ月間のタイミング指導の後、自然周期のIUIを5回行なう。当院の原因不明不妊に対する自然周期のIUIの妊娠率は、周期あたり5.9%、患者あたり18.7%である。当院の成績からみて、自然周期のIUIは行なう価値のある治療と認識している。これで妊娠しない場合には、クロミフェン+HMG+IUIを3周期行なう。過排卵+IUIを最初から行なうと、多胎の可能性が高くなる。自然周期のIUIを5周期行なってから過排卵+IUIを行なえば、時間はかかるものの、最終的な妊娠率はかわらず多胎妊娠を減らす事ができる。ただし、患者年齢が高い場合には早めに過排卵+IUIを行なう。これで妊娠しない場合にはIVFに移る。 しかし、今回多くの報告を読み、以下のような方法に変更する事も検討している。自然周期+タイミング指導:4周期→クロミフェン+タイミング指導:4周期→自然周期+IUI:3周期→クロミフェン+IUI:3周期→HMG+IUI:3周期→IVF。 原因不明不妊の治療方針に絶対的なものはない。本質的な治療の流れはおさえつつ、各施設がそれぞれの考え方を取り入れ、各施設なりの治療方針を工夫されれば良いだろう。 |